平成8年(1996年)、腸管出血性大腸菌0157による集団食中毒が日本各地で発生したことにより、細菌性食中毒の発生件数、患者数、死亡者数はそれまでの10年間で最悪の結果になりました。その後も死者数こそ減ったものの、なお発生が減少傾向にあるとは言えず、今後も十分な対策が必要です。また発生状況は、5~10月で年間の75~85%を占めますが寒い時期でもゼロではありません。ここでは診断と治療について薬剤師向けに書かれた内容ですが、皆さんにも参考にしていただきたいと思いましたので、掲載することにいたしました。
【食中毒の診断】
細菌性食中毒の診断は、本来は検便による細菌検査を行い、原因菌を同定するのが原則だが、菌の同定には2~3日を要するため、予め現在までの症状や数日間の飲食歴、海外への渡航歴の有無などの事情を聴取して原因を想定しなければならない。下痢を主訴とした患者さんの場合は、広く感染性腸炎を疑い、その症状から原因菌を推察する。
原因菌により症状、感染源となった食材、潜伏期間が異なるので、これらを統合して判断する。
1)サルモネラ: 鶏卵、肉類(潜伏期1~5日)盛夏多発
2)腸炎ビブリオ: 生食魚介類(12~24時間)盛夏多発
3)ブドウ球菌: 調理者を介在(1~5時間)耐熱性毒素
4)0157: 加工食肉、水耕野菜(数日)血便、腹痛
5)その他の病原性大腸菌: 加工食肉、水耕野菜(数日)、水様便、旅行者下痢症
6)カンピロバクター:肉類:(1~10日)人獣共通感染
7)ボツリヌス: 缶詰、瓶詰、真空パック、蜂蜜(18時間前後)神経症あり(複視、麻痺)
8)ウェルシュ: 食前不加熱(8~22時間)耐熱性、症状は一過性の下痢で特に治療を要しない。
9)セレウス: 米などの穀類や香辛料(1~6時間)軽症
10)赤痢: 飲料水、食物(1~5日)血便、粘液便
11)コレラ: 飲料水、食物(1~3日)水様便、無熱
12)ロタウィルス: 飲料水、食物(1~3日)水様便冬季多発
【治療の原則】
感染性腸炎は一般的に自然治癒傾向の強い疾患である。従って対症療法を優先する。
1.輸液
下痢と発熱、それに伴う脱水の補正が最重要。脱水の程度に応じ経口または静脈内輸液を行う。
2.食事療法
制限を最小限にとどめ、胃腸症状があっても、水分が多く消化の良い食事をとる。
3.対症薬物療法
感染性下痢症には、強力な下痢止めは原則として使用しない。
蠕動運動を抑制する鎮静剤の使用を避ける。
解熱薬は脱水を悪化させる危険がある。
腸内細菌叢回復のため、整腸剤、乳酸菌製剤を用いる。
(参考:PHARMAVISION VOL4)
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