気が病むこと
最近では、精神的な要因が関係している病気が増えているように思えます。うつ病、喘息、アトピー性皮膚炎、リウマチ、多汗症、心臓病なども精神面が大きく影響しています。
「気が病む」ことによって起こる身体と精神の失調、すなわち「病気」の原義ですが、この「気」を正しく整えることこそが、漢方治療の重要な役割になります。
「気」を一言で言えば、エネルギーということになるでしょうか。私たちのエネルギーの素は元気ですが、この元気は二つの要素から成り立っています。つまり、両親から授かった生まれながらにして持っている先天性の気と、それとは別に食物や大気のエネルギーによって受ける後天性の気によって調和が保たれているのです。
ところが、外部から寒気、湿気といった気候的要因や、またはウィルスや細菌などの邪気によっての害を強く受けると、
私たちの身体を護っている鋭気が傷つけられ、ついには病気になってしまうのです。
もっとも、病気の原因になるものは、外部からのものばかりとは限りません。自分自身の内部からも元気が傷つけられ
ることがあります。その一つは栄養のバランスです。このバランスが壊れると、人体の中枢である五臓六腑に栄養を送
り込む鋭気が乱れ、病気になります。
さらにもう一つは、精神的な面です。日常生活の中で、気詰まりなことや気にかかることが多いとだんだん気落ちし、気
が枯れてくるようになります。この気が枯れる状態、およびその原因となることがらを日本では古くからケガレと呼び、忌み嫌ってきました。そのケガレが多くなるとやがて病気になり、それがひどくなると「陽気」の全く消滅した状態、即ち死に至るわけです。
気を滞らせないようにするには
それでは病気にならないようにするには、どうしたらよいでしょうか。
常に周囲に対して気を回し続け、滞りを起こさせないようにし、気を充実させることが大切です。ただ、この「気を回す」とは、気を使いすぎることではありません。気を滞らせないコツとして、漢方の古典「素問」では、七情の調和を第一に上げています。
七情というのは、喜、怒、憂、思、悲、驚、怒の七つの感情のことで、「喜」と「驚」は心を傷つけ、「怒」は肝を、「憂」と「思」は脾胃を、「悲」は肺を、そして「怒」は腎を傷つけると言われています。これらの感情が偏りすぎ、しかもその感情に囚われるようになると、それぞれの臓器で気が滞るようになり、やがては病むことになります。
物事に対する強すぎる執着や、過ぎた欲望を持たないことも大事です。これらの思いが強すぎると、やがて物欲へのこだわりとなり、気の流れを阻止するようになります。
もう一つ日常生活の中で注意したいのが、「言葉」です。一つの言葉によって気が潤い、充実したり、逆に損なわれたりすることは多いものです。いやなことを聞き、それを心に入れれば、気や心が重くなり、さらには身体も重くなって病気になってしまいます。逆に楽しい言葉やうれしい言葉を聞けば、身も心も軽くなります。心に入れる言葉は良い物だけにし、悪い言葉は入れないようにするのが、毎日を快適に過ごすコツと言えます。言葉もまた、気を持っているのです。