カレーの薬効

カレーについて

カレーの原料となっているスパイスは、薬味とも言われるように、インドにおける伝統医学でアーユルヴェーダで用いられる薬物が主体となっています。これらの薬物はヨーロッパや中国にも伝えられ、それぞれの国で同様の薬効を期待して用いられてきました。またヨーロッパやアラビアなどの香辛料が逆にインドに移入され用いられたものもあります。今日日本において漢方医学の再認識が叫ばれ、漢薬の名も一般化してきましたが、カレーの主原料であるウコンや、香辛料として調合されるショウウイキョウ、ニクズク、チョウジなど漢方の胃腸薬として欠くことのできないものもあり、中国文化とインド文化の接触から生まれたものと言えるでしょう。インドのアーユルヴェーダは仏教の伝播と共に中国に伝わり、そこで用いられる薬物は、唐代の新しい薬物として本草書に収載され、日本には遣唐使らにより伝来され、正倉院にも収められています。

最近の研究でも、カレーの薬効を裏付ける実験結果が報告されています。東大医学部教授の丁宗鉄さん(生体防御機学)が20~30代の6人に具の入っていないカレールウを食べてもらい、1時間にわたって脳内の血流量を測定したところ、食べる前より血流が2~4%増える状態が続き、65歳以上でも同様の働きが認められたということです。
カレーライスは子供や若者の人気メニューですが、脳血流をよくするというという点は、とりわけ高齢者にもおすすめの料理と言えるでしょう。

カレーの原料となるスパイスの種類は非常に多く、インド式、インドネシア式など様々ですが、ここではインドカレーを主体にしてそれに調合されるスパイスの薬効効果などをとりあげてみましょう。

スパイスの薬効

1)ガーリック(Garlic・ニンニク)

ユリ科のセイヨウニンニクおよびオオニンニクの鱗茎を乾燥したものをガーリック(ニンニク)と総称しています。
漢方では健胃、発汗、利尿、去痰、整腸、殺菌、駆虫の効果を期待して用いられます。また、ヨーロッパの民間では古くから急性および慢性の伝染性胃腸炎、赤痢、腸チフス、動脈硬化、高血圧症などに広く応用され
ています。

2)ジンジャー(Zinger・生姜)

ショウガ科のショウガの根茎をそのまま乾燥または蒸して乾燥したものです。
漢方では生姜と乾姜があり、前者はそのまま、後者は蒸して乾燥したものですが、漢方の医方書の生姜は古根(ヒネショウガ)を用い、乾姜は普通の乾燥品を用います。生姜は新陳代謝を促進し、水毒を去る目的で嘔吐、咳、頭痛、腸満、実証の発熱、鼻づまりなどに用い、乾姜は腹冷痛、腰痛、瀉下などに応用されています。ショウガの成分は精油および辛味成分で、これが食欲増進、健胃、鎮嘔、鎮痛作用を示すとされています。

3)チリー(Chilly・唐辛子)

ナス科のトウガラシおよびそれらの多くの変種、品種の果実です。トウガラシは世界各地で栽培され多くの品種が作られていて、中にはピーマンのように辛くない品種もありますが、ほとんどは辛いものでカレーの辛味の中心となっています。辛味成分はカプサイシンと呼ばれるもので、興奮、局所刺激作用があり、また駆風(腸内のガスを出すこと)、健胃の効果もあり、消化不良、胃炎、疝痛などに用いられます。またトウガラシチンキは、ヨーロッパや日本でリウマチ、神経痛、腰痛、凍傷などに塗布します。

4)パセリ(Parsely)

地中海沿岸地方原産のセリ科の若葉で、西洋料理には欠くことのできないものです。アピオールという精油成分を含み、ビタミンC、A、B群が豊富で、葉や果実はヨーロッパの民間では消化促進剤として用いられています。

5)ミント(Mint・薄荷)

ミントは厳密にはペパーミントのことで、ヨーロッパ原産のシソ科のセイヨウハッカで、葉をすりつぶしたり、もんだりして油分を肉や魚のソースに入れたり香辛料として用います。
ハッカの葉を水蒸気蒸留して得た精油からハッカ脳を除いたものをハッカ油と称し、日本薬局方にも収載されています。ハッカ油は芳香健胃、駆風薬として内服し、また局所刺激薬として鎮嘔、抗消炎の意味でうがい水などに入れられます。日本でもハッカ葉は古くから民間的に虫にさされた傷や蛇咬傷などにもんで貼るなどの使い方がされていました。

6)マスタード(Mastard・芥子)

日本薬局方で規定されている芥子は、アブラナ科のカラシナおよびその栽培品種の種子です。辛味は種子に含まれる配糖体シニグリンがミロシンという酵素の作用で分解されアリルイソチオシアネートを生ずることで生成します。そのため、カラシ粉は熱湯でとくと酵素が働かず辛味がなくなります。薬用としては局所刺激、発泡薬とし、または芥子を微温湯でといた芥子泥はリウマチ、神経痛などの痛みをとるために貼って使われます。または食欲増進剤として食用嗜好品とされています。インドネシアのジャワ島では駆梅薬としても使用されています。

7)ターメリック(Turmeric・ウコン)

インド・熱帯アジア原産ショウガ科のウコンの根を乾燥したものです。カレー粉の黄色はウコン中に含まれる色素成分クルクミンにによるもので、ウコン自体はスタフィロコッカス属などの菌に対し抗菌作用があり、また同時に含まれるフェルラ酸と共に胆汁分泌促進作用があるとされています。

8)クミン(Cumin)

東地中海地方原産のセリ科クミンの果実で、他のセリ科植物の果実に比べて刺激性や芳香性が温和です。インドでは香味料の他に駆風薬とし、マレーシアでは胃腸薬、収斂薬として用いられています。

9)ブラックペパー(Black Pepper・黒胡椒)・ホワイトペパー(White Pepper・白胡椒)

胡椒には黒胡椒と白胡椒がありますが、加工法の違いによるもので、共に原植物は南インド原産コショウ科のコショウです。
この果実をやや未熟のうちに採って天日乾燥したものが黒胡椒であり。完熟させてから採取し、約1週間水に浸して外皮を去り、乾燥させたものが白胡椒です。胡椒の精油成分はほとんど外皮に含まれているので、白胡椒のほうが香味がおだやかでヨーロッパでは白のほうが好まれています。薬用としては健胃、消化促進薬として用いられ、マレーシアではハチミツと混ぜてリウマチや頭痛に刺激剤として外用されています。

10) カルダモン(Cardamon・ショウズク)

南インド原産ショウガ科のカルダモンの果実で、インドにおいて古くから芳香性健胃薬として用いられていました。日本では山椒の代用として苦味チンキ、芳香チンキの原料としていますが、直接薬用とはしていません。使用時には果実を割って種子を用います。

11) クローブ(Clove・チョウジ)

香料諸島といわれるモルッカ諸島原産のフトモモ科植物の花蕾で、精油オイゲノールを含み強い芳香があります。薬用としては、消化機能促進、駆風薬として各種の家庭薬に配合され、その他、含嗽剤などの矯臭薬としても用いられています。

12) コリアンダー(Coriander・コズイシ)

地中海地方頭部原産セリ科のコエンドロの果実で。ヨーロッパでは古くから健胃、駆風薬とされ、紀元1世紀の医者ディオスコリデスは肝臓、腸、眼の病気に良いと記しています。

13) ナツメグ(Nutmeg・ニクズク)

チョウジの原産地モルッカ諸島の近くのバンダ諸島に原産するニクズク科ニクズクの種子で、使用するときは種皮を割ってその仁を用います。成分は精油2~9%、脂肪、芳香成分ミリスチシンなどで、芳香性健胃、矯味矯臭薬としての需要が多くなっています。

14) キャラウェイ(Caraway・カルム実)

ヨーロッパ東部~アジア西部地域原産のセリ科ヒメウイキョウの果実で、ウイキョウ(フェンネル)の代用品として健胃、駆風薬として使われ、また料理や製菓の香料とされています。

15) ベイリーフ(Bay Leaf・月桂樹葉)

南ヨーロッパ原産のクスノキ科ゲッケイジュの葉で、精油1~3%を含み、ヨーロッパにおいては芳香性健胃薬として内服し、リウマチ、疹癬などの塗布薬としても使われています。果実も月桂実と称し苦味健胃薬として使われています。

16) オールスパイス(All Spice)

西インド諸島のジャマイカ島に産するフトモモ科ピメントの果実で、スパイス界のビッグスリー・チョウジ、ニクズク、ケイヒの香りを兼ね備えたものというのでオールスパイスの名があります。精油を含み食料香料として多用されますが薬用には使われていません。

17) フェンネル(Fennel・ショウウイキョウ)

ヨーロッパ原産セリ科のウイキョウの種子で、各国の薬局方に記載されています。精油3~8%、主成分はアネトールで、その他ピネン、アニスアルデヒドなどを含み、芳香性健胃、駆風、去痰薬として粉末(1日0.5~2g)または浸剤(5~15g)で用います。

18) タマリンド(Tamarind)

熱帯アフリカ原産マメ科タマリンドノキの果泥で、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸などの有機酸類を含み、かつては清涼緩下剤として用いました。この樹はインドや東南アジア諸国では並木として植えられており、果実のビタミンB群含有量は非常に高く、また種子はガム剤としても用いられ、今後大いに活用されるものと思われます。
           

            (参考:ウチダ和漢薬:和漢薬574号)

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