噛むこと

かむという動作は、健康に欠かせない大切な条件です。かむことによって唾液や胃液の分泌が高まり、消化を良くするだけでなく、歯と顎を発達させて虫歯や歯周病を防ぎ、ボケ予防にもなるという効果もあります。
また、満腹中枢が刺激されて満足感が得られるので、食べ過ぎによる肥満を防ぐことにもつながります。

人類の祖先である「猿人」が誕生したのは400万年前で、それから300万年間はほとんど進歩がありませんでしたが、それを切り開いたのが100万年前の火を利用するようになってからといわれています。それまでは引き裂く程度だった肉や魚を焼いたり、煮たりすることを覚え、食べ物をじっくり味わう「原人」になりました。この際、かむこと(咀嚼)が脳の成長を促したといえるでしょう。食べるとき、咀嚼筋肉の咬筋の運動によって大脳を刺激し、脳循環を活性化するのです。スポーツ選手がガムを噛んで集中力を高め、顎を良く使うとボケにくいとされる理由でもあります。猿人の脳が300gだったのに対し、顎を活発に動かすことで、脳の働きを高め、わずか30万年間で千グラムの原人に進化しました。

前歯で噛み切り、犬歯で突き刺し、口の奥の小臼歯と大臼歯で砕きすりつぶし、唾液とともに胃袋に流し込むという、それぞれの役割を担う咀嚼の総合力は、人類の歩みのあかしともいえます。

それなのに1400gの脳を持つ現代人は、噛まなくなってしまい、咀嚼数は弥生時代の六分の一ともいわれています。柔らかい食べ物が増えたためか、顎が未発達なのか、顎関節症も多くなっていると報告されています。

唾液の働きも見直されています。しっかり噛むほど唾液量も多く分泌され、それによって口中に多く常在する雑菌も洗浄されます。さらに、唾液には発ガン物質を抑制するという作用も認められています。唾液に含まれるさまざまな酵素やビタミンが作用するのではないかと考えられており、東京都消費者センターでの実験によると、唾液の効果は約30秒で最大になるため、一口30回噛むのが良いということです。

「新人類」は噛まない分、出ない唾液代わりに清涼飲料水で流しこむ食事になっているという指摘もありますが、脳の刺激のためにも噛む食事を心がけたいものです。

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